13種類のがんをごく早期に、しかもごく簡単な方法で発見できる研究です。
そんな夢のようながん検査法が現実の一歩手前まできています。
その検査の方法とは、血液中を流れている「がん細胞からのメッセージ」をとらえて、体に潜んでいるがんの種類を特定しようというものです。
一体どんな仕組みなのか、そしていつ私たちが受けられるのか?
「夢のがん早期診断」が実現間近に
この研究は2014年、国立がん研究センターを中心に、
9つの大学と6つの企業が参加してスタートしました。
まだ試験段階ですが。
血液検査をするだけで、
胃がんや乳がんといった患者数の多いがんはもちろん、
希少ながんも含めた13種類が発見できます。
13種類のがん
(大腸がん、胃がん、肺がん、乳がん、前立腺がん、
食道がん、肝臓がん、胆道がん、すい臓がん、
卵巣がん、ぼうこうがん、肉腫、神経膠腫)
ごく初期の段階で診断できるという、夢のような検査手法が実現しようとしています。
最新報告によれば、がんを正しく判定できる精度は95%以上という結果がでているそうです。
実用化を目指し、現在急ピッチで研究が進められています。
現在のがん検診
それぞれのがんによって異なる種類の検査を受ける必要があります。
患者にとって負担な、痛みや精神的な苦痛を伴う検査もあるのが現状です。
いまや日本人の2人に1人ががんと診断される状況です。
検診の受診率は全体の3割にとどまっており、先進国の中でも低い割合です。
検査の負担を軽くすることは、がんの早期発見・早期治療を実現する上で、
とても大事な課題なのです。
それが血液1滴で13種類のがんが発見できる!
旧、国立がん研究センター研究所の落谷孝広主任分野長は、
「国民の多くの方がこの新しい検査を受けられる時代がくれば、
がんを早く見つけ出し、早く治療することができるになる」
と言っています。
それによって、がんによる死亡者数を国民全体で減らすことが究極の目標です」と落谷孝広さんは言っています。
がん検査で調べるのは、血液の中を流れる「マイクロRNA」と呼ばれる物質(核酸)です。
マイクロRNAは、遺伝子の働きを調節し、細胞の働きを変えてしまう作用があることがわかっています。
私たちの血液の中には、およそ500種類ものマイクロRNAが流れていると言われています。
検査で注目するのは、「がん細胞が放出するマイクロRNA」です。
最新研究によって、がんのタイプにより、放出するマイクロRNAの量や種類が異なることがわかっています。
国立がん研究センター研究所では、企業と共同でごく微量のマイクロRNAを正確に測定できる装置を開発しました。
それによって、体の中にどんな種類のがん細胞が潜んでいるかを早期に突き止めることが可能になりつつあるのです。
この研究が完成されれば、簡単な血液検査でがんの早期発見が出来る事になります。
すばらしい研究ですよね~!
世界が注目する、がん細胞が出す「エクソソーム」とは?
がん細胞が出す「マイクロRNA」。
ある特別な「カプセル」に封じ込められた形でがん細胞から放出され、血液に乗って全身をめぐっていると考えられています。
その「カプセル」とは、「エクソソーム」と呼ばれるものです。
エクソソームは、直径わずか1万分の1ミリほどの、
まさに小さなカプセル(小胞)で、がん細胞だけでなく、
ほとんどすべての細胞が分泌していることが分かっています。
かつては、細胞が不要になった物質をこのエクソソームに封入し、外に排出していると考えられてきました。
しかしエクソソームの中に「マイクロRNA」が含まれていることを
スウェーデンの研究者が発見しました。
さらにその後、落谷孝広さんの国立ガンセンター研究チームが、
なんと細胞同士がこのエクソソームの中のマイクロRNAを使ってお互いに
「情報交換」をしているという驚くべき事実を突き止め、世界に衝撃を与えました。
これまでさまざまな細胞が、
「ホルモン」や「サイトカイン」などと呼ばれるミクロの物質を出して、
情報交換を行っていることは知られていました。
その「細胞間コミュニケーション」の新たな道具として、
「エクソソーム」の存在が明らかにされたのです。
エクソソームによるがん悪性化機構の解明
国立がんセンター研究所では、エクソソームを介したがんの増殖、浸潤、転移などのがん悪性化メカニズムを研究しています。
がん微小環境の形成や前転移ニッチェの形成メカニズム解明に向けて研究を行っています。
例えば、がん細胞が分泌するエクソソームに内包されるmiRNAが腫瘍内血管新生を引き起こしす。
その結果、エクソソームおよびエクソソーム内miRNAが転移にも関与していることを明らかにしました。
さらに、がん細胞が分泌するエクソソームは脳血液関門を破壊し、脳転移を促進する一因であることがわかっています。
がん細胞のみならず、
非がん細胞である骨髄由来間葉系幹細胞が分泌するエクソソームが、
がん細胞の休眠状態を誘導し、長期再発に関与していることが明らかになりました。
現在、エクソソームが引き起こす卵巣がんの腹膜転移に関する研究や
がん微小環境におけるエクソソームの機能解明などの研究がおこなわれています。
さまざまながん細胞が出すエクソソーム
(国立がん研究センター研究所 分子細胞治療研究分野 落谷孝広さん)
がん細胞は、何のためにエクソソームを出しているのでしょうか?
がん細胞は「エクソソーム」を使って、がん細胞の転移や再発を引き起こすということが研究でわかりました。
たとえば、乳がんは早期に治療すれば比較的完治しやすいがんだと言われています。
しかし気が付かないと、長い期間を経て脳に転移する場合があることが知られています。
しかし本来、脳の血管には「血液脳関門」と呼ばれるバリアのような構造があり、
がん細胞はそのバリアを突破して脳内に侵入することは困難です。
脳の血管は、脳以外の全身の血管と異なり、
血管の壁を覆う細胞同士がかたく結びついています。
脳へ入ることのできないようにガードしているのです。
このバリアを、がん細胞はどうやって突破してしまうのか???
これまで謎とされてきた、その詳しいメカニズムを、落谷孝広さんたちが研究で解明しました。
医療を変えるエクソソーム: 生体機能から疾患メカニズム,臨床応用まで | ||||
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脳の血管表面から侵入するエクソソーム
(脳の血管表面から侵入するエクソソーム)
まず、乳がんの細胞から放出されたエクソソームは、血液に乗って脳の血管までたどり着きます。
すると、「血液脳関門」を構成する内皮細胞という細胞は、なぜかこのエクソソームをがん細胞から来たものとは知らずに受け取り、カプセルを開封してしまいます。
すると、エクソソームの中に潜んでいた「マイクロRNA」が内皮細胞の中へ侵入します。
遺伝子の働きを変えることで、血液脳関門のバリアを緩めさせてしまうそうです。
その後、血液の流れによって運ばれてきた乳がんの細胞は、このバリアが緩んだ部分から脳の内部に入り込みます。
こうして、脳への転移を起こすのです。
がん細胞が出すエクソソームとは、悪くて賢いものだと説明されています。
まとめ
以上のメカニズムを研究することで、
今回の13種類のがん診断技術のほかにも、新たな治療法を生み出そうとしています。
また、海外でもエクソソームを利用したがん治療の臨床試験が始まるなど、盛んに研究が進められています。
がんの克服を目指した最先端の研究から、目が離せませんよね!